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息抜き企画・アンケート1位小話

過去記事でも書きましたが、3位の次は2位となるのが普通ですが、話の進行の都合で1位を先にアップします。
1位小話が前編で2位小話が後編っぽい感じになります。
という事で、1位の鏡花水月・愁夜達の小話です。

尚、エンド後の後日談になるので、エンド後の閲覧を禿しく推奨いたします。
折り曲げからどうぞ。

 

※無断流用・転載厳禁です。

悪夢(ゆめ)のあと



※愁夜視点です。

***

 ――あの悪夢のような死のゲームから生還して、暫く経った。
当時は、ウォークラリー中の遭難からの数日振りの生還とやらで色々騒がれもした。
未成年だった俺達は然程ではなかったが、城嶋さんや楠さん達はマスコミを煙に巻くのに骨を折ったと後で洩らしたものだった。
 だが、そうした報道に圧力でもかかったのだろう。
主催のお偉いさん方の謝罪と会見の後は、潮が引いていくかのようにマスコミも騒がなくなり、やがて平穏な日常に戻っていった。
そして、色々と慌しくしている間に、気がつけば夏も終わり、秋も間近になっていた。
 あのゲームの事は、誰にも話していないし、話す気も無い。
これは、城嶋さんや楠さん、持田さん達と決めた事でもあった。
言ったところで得にもならず、下手をすれば圧力をかけたであろう何者かに聞かれでもしたら、洒落にもならないという危惧からだった。
 それ以外にも、もう一つ理由がある。
最後のレッドラビットまで到達したのは俺だが――その俺もガスのようなものを嗅がされて気を失った後は、気がついたら病院だった。
レッドラビットやホワイトラビットが如何なったのか、何一つ解らないままに死のゲームは終わっていたのだ。
だから、話しようが無いのが本当のところだった。
 だが、俺の中では……いや、俺とあーさの中では、未だ終わっていないという思いがあった。
樹の足取りは、今も未だ杳(よう)として知れなかった。
あれから、城嶋さん達にも手伝ってもらい、彼方此方のサバゲーの同好会や集まりに連絡をとってみたが――どれも梨の礫(つぶて)。
 だからといって、諦めるつもりは無い。
けれど、手元に保管してあるペアリングや携帯の傷を確認しなければ、樹が本当にいたのか自信が持てない事がしばしばあるのも事実だった。
 確かに、言葉を交わした。
触れた手にも、確かな熱があった。
そして、あの時――庇われた。
 だからこそ、五体満足で俺は此処にいる。
それが、揺るがない真実だと信じている。
 ……けれど、時々ふっと背後から肩を叩いてくる迷いや疲れを、完全に拭い去る事が出来ない。
樹といた数日間は、今となっては水面に映った月のようだった。
 それは、あーさも同じなのだろう。
時々、携帯の傷を目で追っている時があるし、時には触らせてくれと……あのメッセージを見せてくれと頼んでくる事もある。
それならばと、ペアリングの片割を預かるかと一度問うた事もあったが、引き離すようで嫌だからと断ったものだった。
だから、俺もそれ以上は何も言わない事にした。
 そんな事をつらつらと思いつつ、あーさを待ちながら携帯の傷を指でなぞる。
裏面で受け留めたのが幸いしたのか、流石は安心と信頼の日本製か――結構ザックリと金属面が抉れているものの、その動作は以前と変わらなかった。
この傷を見る度、我ながらよく受け留めれたものだと他人事のように思う。
「しーやクン、お待たせ!」
「おう、やっと来たか」
 バタバタと足音が聞こえてきたのに合わせて顔を上げれば、丁度あーさが家から出てくるところだった。
「ゴメンね! 寝癖が直らなくてさぁ」
「そうかい」
 未だに納得していない様子で髪を直しているが、俺から見れば威風堂々と自己主張しているアホ毛の方が気になるというものだ。
何故にあの時刺さったのか、ささやかな謎として俺の中に残っているのは、あーさには内緒だ。
「とにかく、そろそろ行くぞ。
バスの時間に間に合わなくなったら、笑えねぇからな」
「あ、ゴメン! 何なら、走る?」
「そこまで遅れてたら、こんなゆっくりしてねぇよ。
まぁ、俺達なら今からでも数分余るくらいじゃないか?」
「それなら良かったよー」
 あれ以来、樹を捜している間に俺は前よりも体力が付いていた。
あーさに関しては、元が元なので察してくれと濁しておくが、何とも皮肉な話ではあった。
樹がいたら――健康的で良いんじゃない?とでも言ってくれるだろうか。
「しーやクン、今日は息抜きだからね!」
「……あぁ、悪い。
そうだったな」
「じゃ、元気に行こう!」
「ああ、行くか」
 あーさに促され、足を踏み出す。
今日ばかりは、ゆっくりと。
 ……あれ以来、ふとした時に物思いに耽る事が多くなった。
クラスメイトには、付き合いが悪くなったと言われるようになった。
 あんな経験をしたからだと言えば身も蓋も無いが、だからといって、悪い事ばかりでは無かったと今は思う。
あのゲームのお陰で、樹や城嶋さん達と出逢えたのは事実だ。
だから、悔いはしていない。
悔いているとしたら、それこそ樹の事だけだった。
 だが、悔いているだけではダメだ。
俺達ばかりが急いでもダメだ。
その事に気づいたのは、つい最近だった。

 ――空振りばかりが続く日々は、自分達で思う以上に精神を削っていたらしい。
それは、暫く前の秋を告げる冷えた風が吹いた日の夕暮れだった。
 今となっては兄貴分になっている城嶋さんに呼ばれ、俺とあーさは近所の公園で待ち合わせた。
城嶋さんと俺達は、公園によくある庵のような休憩所で向かい合わせで座った。
途中のコンビニで買ってきたというホットドリンクを城嶋さんから頂戴して、多少近況を話し合った後で会話は途切れた。
 逢った時から、城嶋さんの様子は普段と変わらないようでいて――目だけは笑っていなかった。
だから、ある種の空気は感じていた。
 やがて、俺達をゆっくりと一瞥し、苦笑を滲ませた後で城嶋さんはぽつりと口を切った。
「……本来なら、楠さん達にお説教の一つもしてもらいたいところだが、生憎遠方だからな。
代理でオレが来た」
 正直、ぎくりとした。
夜前に帰るとはいえ、頻繁に出歩くようになり、事情を詮索しないまでも両親が心配しているのは解っていた。
だから、事情を知っている城嶋さん達に樹を捜すのを止めろと言われたら――そう思うと、思わず膝の上に置いた手に力が篭った。
「お前達、鏡は見てるか? ひどい顔だぜ。
絵里と歩美は勿論、オレも気づくくらいにな」
 思い当たる節があり過ぎて、咽喉から水分がごっそりと抜け落ち、言葉を失う。
言い訳が頭の中で暴れ回るが、どれも音にならなかった。
ただ、あーさも同じ心境なのだろうと、そんな事をひっそり慮(おもんばか)った。
「鈴原の事が、誰よりも気になるのは解るよ。
話でしか聞いてないが、そんな別れ方をしたら……オレだって、居ても立ってもいられないだろう。
それこそ、お前達と同じように何日でも捜し回るよ。
……だから、捜すのを止めろとは言わないし、オレ達も協力は惜しまないつもりだ」
 様子を察したのか、城嶋さんはやんわりとした口振りで言いながら、苦笑を浮かべた。
「……あ、りがとう、ございます……」
 拒絶では無かった事に、俺もあーさも安堵した。
ただ、やはり咽喉は乾いていた。
 それから、暫くの沈黙が訪れた。
言葉を切った城嶋さんの表情は、顔の前で組んだ両手の所為で伺えない。
代わりに、視界の端で伺ったあーさの表情は、色も無く硬いままだった。
 秋が程近いからか、午後の四時を過ぎた公園に子供達の姿は無く、空は紅く焼けていた。
けれども、その紅さとは裏腹に、冷えた風が頬を撫ぜる。
時は、確かに着実に経過していた。
「……なぁ、神代、宮川」
 やがて、城嶋さんが沈黙を破った。
両手を解いたその表情は、あの時の――招待状を受け取った時のような真摯さを帯びていた。
「オレだって、未だ若造だ。
お前達に彼是と偉そうな事は言えやしない。
だがな、少し……ほんの少しで良いんだ。
周囲を見てみろ。
大事な事を忘れちまうほど、お前達は孤独か?」
「――」
 嗚呼、馬鹿だなあと思った。
誰でもなく、自分が馬鹿過ぎて厭きれた。
「……すいません、でした……」
 やがて出た言葉も、厭になるくらいにかすれていた。
「……ごめんなさい……」
 あーさもまた、同じように乾いた音を立てていた。
嗚呼、俺達は本当に馬鹿だった。
俺達の力なんてちっぽけなモノで、城嶋さんや楠さん、持田さん達――それから、樹のお陰で生きて帰ってこれた。
 それなのに、自分達の事でいっぱいいっぱいで、自分達の事しか考えてなかった。
彼方此方から差し出されている手に気づかず、進んでしまうところだった。
本当に、大事な事を見失っていた。
「解ればいいさ。
まぁ、オレも実際のところ……こういうのはガラじゃないし、一度楠さん夫妻に連絡を取ったんだ。
そしたら、『君は彼等の兄貴分だろう。話もしないうちから諦めては駄目だよ』って言われてな。
そりゃ尤もだと、こうして当って砕けるつもりで来たんだよ」
 城嶋さんは、普段の言動から軽めに見られがちだが、その実よく見ているししっかりしている。
だからこそ、楠さん夫妻も任せたのだろうと、容易に察せた。
「……心配かけて、すいませんでした」
「ごめんなさい、城嶋サン……」
「まぁ、オレもやれば出来るってな。
これなら、帰って二人に怒られなくても済むってモンだ」
 冗談めかしているが、それも気を遣ってくれているのだろう。
「皆さんにも、よろしく伝えて下さい」
「ああ、絵里や歩美には伝えておくよ。
でも、楠さん夫妻にはお前さん達からちゃんと言ってやれ。
そういうの、大事だろ?」
 そして、城嶋さんは器用にウインクして見せた。
確かに、その通りだった。
「はい」
「そうします」
 俺達の表情筋も、そこで漸く緊張から解放されたように解れた。
「そういう事で、お説教は終わりな。
まぁ、お説教だけじゃアレだからな、聞き分けの良いお前さん達にはコイツをやろう」
 そして、城嶋さんは懐から二枚の紙を取り出した。
「あ! 『となりのポポロ』のチケット!」
 真っ先に反応したのは、あーさだった。
そういえば、今上映中で観たいと言っていたような気がする。
「如何したんですか? それ」
「ああ、サークル仲間からもらったんだよ。
デートのネタに使うつもりだったらしいが、その前にフラれたみたいで、捨ててくれって押し付けられたんだ。
絵里はともかく、歩美はオレと同じでアクションの方が好きだからさ。
で、お前さん達にやるつもりで持ってきたんだ」
「じゃあ! 良いんですね!?」
 あれだけしょぼくれていたのも忘却の彼方か、あーさの現金さ加減に城嶋さんと共に苦笑する。
とはいえ、落ち込まれ過ぎても困るのも事実だから、これで良いのだろう。
「おう、やるよ。
息抜きに観に行ってこい」
「ありがとうございます!」
 チケットを受け取るあーさは、本当に嬉しそうだ。
余程観たかったらしい。
「神代は趣味じゃないかもしれないが、折角だから付き合ってやれよ」
「それはまぁ、大丈夫ですけど……色々気を遣ってもらったのに、チケットまで頂いて良かったんですか?
結構高いですよね、チケットって」
「良いんだよ、こういうのは大人の役目だからな。
それに、チケットも本当に押し付けられたモンだし、そんな深く考えなさんな」
「……それじゃあ、お言葉に甘えます。
ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
「うむ、よろしい」
 俺達は、本当に良い人達に出逢えたと思う。
賞金なんかより、ずっと価値がある大切な出逢いだった。

 ――映画の鑑賞も終わり、久し振りに彼方此方観覧して歩いていれば、あっという間に時は過ぎていった。
そして、最寄のバス停に着く頃には、既に空は紅く焼けていた。
「『ポポロ』、面白かったか?」
「うん! 期待以上だったよ!」
「そりゃ良かった。
後で城嶋さんにメールしとけよ」
「あ、そうだね!」
 スキップでもしそうなくらい上機嫌なあーさを見るのは、随分久し振りのような気がする。
本当に俺達はいっぱいいっぱいだったのだと、今更実感した。
「今日は、楽しかったよ!
何だか、すっごく久し振りな感じで……城嶋サン達には感謝しないとね」
 それは、あーさも同じだったらしい。
「……ホントにな。
ああいう時に怒ってくれる人がいるって、幸せな事だよな」
「うん、そうだね」
 そして、お互い笑い合う。
こんな風に何の衒(てら)いも無く自然に笑うのは久し振りで――多分の喜びと多少の苦みを噛み締めた。
 それから、他愛の無い話を交わしながら、ゆっくり帰路を歩いた。
樹の事は勿論忘れていないが、彼奴だって切羽詰った俺達など見たくもないだろう。
だから、捜すのは止めないままで、もう少し周囲を見ようと思いながら。
「あ、風船だ」
 そんな事を思いながら歩いていると、T字路に差し掛かる辺りであーさが声を上げた。
指差す方を見れば、紅い空に飛び上がっていく白い風船が見えた。
風に吹かれて当て所無く飛んでいく風船を暫く二人で見送り、それから視線を戻して――俺達は、恐らく同時に目を瞠った。
「神代さま、宮川さま、お久し振りでございます」
 それは、一体何時の間の事だったのか。
俺達の目の前に、あの白い兎面の案内人が佇んでいた。
「ホワイト、ラビット……」
 色々な感情が交錯していき、最後に気持ち悪さが残った。
相変わらず感情の見て取れない兎面も然る事ながら、その機械変換された声が、やけに穏やかに響いたからだった。
「し、しーやクン……」
 背後のあーさの声は、若干震えていた。
とはいえ、それを宥める余裕は残念ながら俺にも無く、ただあの時と同じように少し前に出た。
「……久し振り、だな」
「はい」
 伺うように言えば、一切の軽口も無く、静かな返答が返ってきた。
「先ず、一つ。
ワタクシはもう、『案内人』ではありません。
従って、お二人には勿論、他の皆さま方にも危害を加える事はしないとお約束致します」
「それなら、何故今頃になって現れた?」
 あの時が偽りで、現在が素なのか――または、逆なのか。
まとわりつく気持ち悪さを振り払うように、単刀直入に問うた。
「嘘偽り無い本心で、二度と現れるつもりはありませんでした。
ですが、最後まで到達した貴方達には、ワタクシに問う権利が在りましょう。
なればこそ、恥と承知で今一度こうして参った次第です」
 兎面の中の素顔など、俺達には知る由は無い。
だが、その声が含む音で、それが本気なのだと窺い知るには十分だった。
「……なら、訊こう。
お前は、何者なんだ?」
 だから、下手な勘繰りをせずに問うた。
「ワタクシは、『影』でございます」
 そして、ホワイトラビットはゆっくりと答えた。
「『影』……」
「レッドラビットが、過去にもあのような所業をしてきたのは、お察しの事でしょう。
ワタクシは、その所業から生じた『影』なのです」
「――」
「有体に申し上げれば、アレを主と呼んだのは、その必要があったというだけです」
 言われて見れば、思い当たる節があった。
ゲーム中は脅されはしたものの、基本的には確かに『案内人』以上の事はしなかった。
何より、佐山を含めた参加達がこうして生還している裏には、ホワイトラビットが何もしなかったとは言い難い。
 だが、それ以上の言葉の含みを感じた。
如何受け取って、如何答えれば良いのか――返す言葉が、見つからない。
「……ウサギさん、もしかして……」
 言葉を決めかねていると、俺より鋭い分、勘づいたようにあーさがぼそりと口を切った。
「それ以上は、申されますな」
 だが、ホワイトラビットはそれを遮った。
「お互い、自分の為すべき事をした――それだけです。
なればこそ、互いに頭を下げる必要も、憐れみをかける意味もありません」
 それは、突き放すような口振りの割に、含む音は子供に言い聞かせるようだった。
「……アンタ、実は損な性格だろ」
「さぁ、如何でしょう」
 ささやかな意趣返しも含めて言えば、その兎面の下で苦笑したのだろう気配が伝わった。
気づけば、気持ち悪さはもう引いていた。
その内面の感情こそ見えないものの、中身は血の通った人間だと解ったからだった。
「……質問は、未だ受け付けてるのか?」
「答えられる事に限りますが、何なりと」
「『ヤツ』は、如何なった?」
 だからこそ、遭遇した当初とは違った緊張を以って、単刀直入に問うた。
権利が在るというのならば、俺が問わねばならないと思ったからだ。
「詳しくは申し上げられませんが、然るべき場所に送られました。
もう二度と、あのような所業はさせぬ事をお約束します」
「……そうか」
 その返答に、細く長い息と共に言葉を吐き出した。
元々、深く詮索するつもりは無いし、このホワイトラビットが言うならそうなのだろう。
ならば、それで良い。
「……じゃあ、樹クンは……如何なったの?」
 それからややあって、常からは想像も出来ないような乾いた声で、あーさが問うた。
どんな顔をしているかなど、解らない。
ただ、あーさのために振り返らないでおこうと思った。
「……残念ながら、鈴原さまの消息については存じ上げません。
何も見つかりませんでしたので」
「!!」
 やがて返された答えに、俺達は一気に肝を冷やし――それから、言葉の意味を何度も反芻した。
何も見つからなかったと、確かにホワイトラビットは今、そう言った。
それを反芻する間に、ふと気づく。
「……『何も』?」
「それって……」
 そして、俺はあーさと顔を見合わせた。
「焦りなされるな。
熟さねば落ちぬ想いもありましょう」
「――」
 そこで、このタイミングでホワイトラビットが現れた本当の理由に思い至った。
けれど、言ったところで否定するだろう事も何と無く解った。
「……アンタ、やっぱり損な性格してるよ」
 だから、ただそう口にした。
「そうかもしれませんね」
 ホワイトラビットもまた、否定もせずに静かに返した。
「ねぇ、ウサギさん……最後にもう一つだけ、訊かせて」
 そして、あーさが問うた。
「何時か……逢えるかな?」
 俺が、ずっと問えずにいた事を。
「願い望むならば、必ず」
 答えは、早かった。
そして、その一言は機械の音でありながら、沁みるような響きを持っていた。
「……そ、か」
 どんな表情で、どんな言葉で返せば良いのか解らずに、中途半端な相槌だけが漏れ出た。
けれど、これで――今のままで良いのだと、ただそれだけを噛み締めた。
 それから、如何ほどか。
夕陽が地平線の向こうに消える頃、ホワイトラビットが口を切った。
「……もう頃合ですね。
ワタクシは、『影』。
今度こそ、二度とこの姿を晒す事は無いでしょう」
「……アンタは……いや、止めとこう。
色々あったが、お互い様だった――それで良いんだよな?」
「はい」
「……ありがとう、ウサギさん」
「いいえ。
ワタクシは、ワタクシの役目を果たしただけです。
……さぁ、そろそろ夜が参ります。
親御が心配なさる前に、お帰りなさい」
 言われて見れば、もうすっかり辺りは薄暗くなっていた。
時間としては未だ夕飯には早い頃だが、あの件以来両親に心配をかけているのだから、それは尤もだった。
「……そうだな、帰るか」
「うん。
……さよなら、ウサギさん」
「……じゃあな」
「どうぞお元気で――」
 そして、ホワイトラビットがいる路地とは逆方向に踵を返し、俺達はそのまま歩き出した。
前の時ならば警戒もしただろうが、今となってはそれも無い。
まるで、別人のようにその雰囲気は変わっていたが――恐らく、今の方が素なのだろう。
 そうして、少し歩いてから後ろを振り返る頃には、やはりその姿は消えていた。
「見送ってから消えるとは、案外義理堅いヤツだな。
何だかんだで、色々根回ししてくれたのもアイツかもな」
「うん。
……ウサギさん、悪いヒトじゃないと思うよ」
「……そうだな」
 本人の言う通り、必要があったからそうしていただけなのだろう。
その理由は、多分俺達が察する以上に――それこそ、色々あったに違いない。
だが、それを詮索するのはただの野暮天(やぼてん)でしかない。
 ならば、俺達は俺達の為すべき事をやるだけだ。
「『願い望むならば、必ず』か……」
「あたし達、急ぎ過ぎたみたいだね」
「そうだな。
……まぁ、これからはゆっくり進んでいけば良いさ。
俺達はもう、孤独じゃないんだ」
「うん」
 そして、俺達は家路を往く。
急ぐ事無く、しっかりと――。

***

続編の事をさて置いても、邂逅の前に彼等の複雑な心境や経過をちゃんと書くべきかなと思ったら、思いの他長くなりましたorz
個人的に、色々な想いが綯い交ぜになっている時こそ、時間のワンクッションというのは大事だと思っています。
でも、言葉が無さ過ぎても伝わりませんし、本当に人生って答えが無いハードモードですね。
尚、アンケート1,2位が鏡花面子という事で、あえて白兎さんに再登場頂き、次の義親子編に繋がる形にしました。
今回は割と筆が乗ったので思いの他早くアップ出来ましたが、次の話は未だ着手していないので暫しお待ち下さい。
制作の状況やテンションによっては、結構かかるかもしれませんorz
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プロフィール

KUROZ

Author:KUROZ
黒いまめっぽいナマモノ。
最近、珈琲がうめぇ。
禿げ散らかすのが気になるお年頃。
まめっぷ。

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