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息抜き企画・アンケート2位小話

先の1位小話と同時間での義親子サイドです。
大分四苦八苦しましたが、何とか書きあがったので、とりあえず投下します。
前編以上に長めで、設定上厨二テイストがだだもれなのでご注意下さい。
という事で、2位の鏡花水月・義親子の小話です。
1位小話の別サイドとなるため、そちらを先にお読み下さい。(1位小話の文字から飛べます)

尚、エンド後の後日談になるので、エンド後の閲覧を禿しく推奨いたします。
折り曲げからどうぞ。

 

※無断流用・転載厳禁です。

悪夢(ゆめ)のあと・2



※龍樹視点です。

***

 ――『レッドラビット』を捕らえてから、早くも数ヶ月が経過していた。
あの日……積年の仇である男は、抵抗さえせずに連行されていった。
その名を聞けば、同業者の大半が眉根を寄せた大悪党の貫禄も無く、淀んだ眼で虚空をねめつけたまま通り過ぎていった背は、やけに痩せ衰えて見えた。
 だが、それだけだ。
憐れむほどの感慨も無く、けれども、嘲笑するほどの余力も無かった。
ただ、終わったのだと……やっと帰れるのだと、そう噛み締めた。
 とはいえど、それは一時でしかなかった。
相手が相手だけに、その後暫くは事後処理に追われる日々が続いた。
然るべき監視下に送るだけでも緻密な段取りと時間を要し、監視先への引継ぎも通常の倍はかかっただろうか。
 それでも、俺は末端の隊員であるから、仕事が増えても目が回るほどでは無かった。
だが、部隊長である結さんや作戦主任であるチーフなどは、本拠地にいるのが珍しいほどに奔走していたものだ。
そんな状況でも、恐らくは俺の事を慮(おもんばか)ってだろう、時間はバラバラでも結さんは毎日帰宅してくれていた。
 自分の事と任務の事に関しては、本当に貝のように口の堅い人であるから、それについて問うた事は無い。
ただ、結さんが父さんの親友で本当に良かったと……そう思った。

 ――やがて、夏が終わって秋に差し掛かり、平常の任務に戻る頃。
その日の護衛の帰りに、俺は紅く色づいた見慣れた風景の中に佇む、見慣れた人影を見つけた。
「チーフ」
 既に本名より定着した呼称を口にすれば、人影――チーフは、ゆっくりと此方を一瞥した。
「……急にすまんな、龍樹。
時間、良いか?」
 それは、チーフが『独り言』をこぼしに来たという事でもあった。
「はい、大丈夫です」
 その誘いに否も無く頷き、揃って車を停めている裏の駐車場へ向かう。
チーフは、出自不詳ながらも日本人ではありえない異人の容貌と、見上げるほどの上背の持主でもある。
それゆえに、身も蓋も無く言えば悪目立ちするため、外で立ち話をするより車内で会話した方が色々と安心出来るのだった。
 とはいえ、そういった不詳の人間は、ウチの組織では珍しくもない。
元々、組織そのものが訳ありの変人・奇人を集めた集団であるから、浮世離れして当然と言えば当然――その所為で、真っ当な常人に逢うと逆に新鮮に見えてしまう事が多々あった。
「この後に残業は?」
「ありません」
「そうか、それは良かった」
 主に組織の頭脳でもあるチーフは、体格が良いというよりはひたすら長いが、鋭利な目鼻立ちの所為で貧相な印象は無い。
今でこそ慣れたが、組織に入った当初などは、上から見下ろされると萎縮したものだった。
 やがて、辿り着いた車に乗り込み、エンジンを起動させる。
そして、その冷えた座席シートに背を預けて一息吐いた後で、チーフが苦笑と共に口を切った。
「……結は、外見こそ一番ひょろっこいが、中身は一番タフで喰えん。
本当は、もう少しかかる見込みだったんだがな。
彼奴(あいつ)のコネクションのお陰で、予定より早く片付きそうだ」
「……そう、ですか。
お疲れ様です」
 実際のところ、俺は確かに『ヤツ』の捕縛に貢献こそしたが、それだけだ。
色々と問いたい事があるのは事実だが、結局出てきたのは無難な一言だった。
「……『あの男』について、何か言っていたか?」
「……毎日起きて寝るまでの間、一心不乱に聖書の内容を書き続けている事は、聞きました」
 多少の間を置きながら、ゆっくりと問いに返した。
あの日、『ヤツ』の中で何かが瓦解したのだろう。
収容されて以来、『ヤツ』はそれまでの罪を漸く自覚したかのように、聖書の全文を繰り返し書き連ねているという。
それは、孤独で憐れな男の末路だった。
「そうか……」
 その横顔に浮かぶ感慨と、声色に滲む音は、今までの過程を物語るように重かった。
「……お気遣いと尽力、ありがとうございました。
貴方には、本当に色々とお世話になりました」
「止せ止せ。
俺は、ただお節介焼きなだけだ」
 ある意味、俺などより余程骨を折ったであろうチーフに改めて頭を下げれば、懐から木製のシガレットケースを取り出し、火をつけずに煙草のフィルタを噛んだ。
それが、チーフが困っている時のクセだと教えてくれたのは、あの人だった。
「そうであっても、俺は貴方に感謝しています」
「……お前のそういうところ、彼奴(あいつ)譲りだな」
 フィルタをますます強く噛みながら、チーフは困ったように笑った。
「結も昔から、そういうところは固かったよ。
ただ、彼奴は見てくれも殆ど変わりやしないから、俺だけ老け込んだような気分になる」
 この道にあの人をスカウトした当人だけに、その台詞はしみじみと重い。
それだけに、俺はただ苦笑のみを返して、車内ヒーターの温度を調節した。
 だが、そんな穏やかな空気は一時で、チーフの笑みもすぐに消えた。
「……損な役回りだったと、悪態の一つや二つは許すつもりで来たんだがな」
「『ヤツ』がただの抜け殻になって、もう犠牲者が出ないのならば……俺は、それで良いと思えるようになりました。
今までの道程も、無意味に生きるより、ずっと意味が在る事だったと。
だから、本当に感謝しかありません」
 そして、冗談めかした物言いに含まれた本音に、速答する。
事実として、俺は日陰を歩んでいる事に後悔などしていない。
何も知らずに無気力に生きているより、ずっと価値のある日々だったと、今ならそう言い切れる。
 それは、日向で生きる彼等に逢う事が難しいのは確かだ。
けれど、この道にいたからこそ彼等を救えたのだから、それ以上を望むのは欲張りというものだ。
ちゃんと生きて、この世にいる――それだけで、十分だった。
「……お前達は、血こそ繋がっていないが、確かに親子だよ。
何時だったかは忘れたが、結もお前と同じような事を言ったものだ。
『知らずにのうのうと生き延びるより、知って泥を食む方が性に合っている』とな」
「――」
 文字通り、泥を食んで生きてきたあの人の心境を慮(おもんばか)れば、それに対して何と返すべきか答えに窮した。
俺とあの人は、義理とは言え親子だが、未だに一部分しか知らずにいる。
 勿論、知りたくない訳ではないが……あの人と父さんの事を想えば、訊いていいのかという迷いが勝った。
未だに心の整理もつかず、想いを持て余しているような体たらくで、何を訊けるというのか。
問うべき言葉など、見つからなかった。
 そうして口を噤んでいると、やはり煙草のフィルタを噛んだままで、再びチーフが口を切った。
「……だが、本当に礼など要らんよ。
長年、心身を削って『あの男』を引きずり出したのは、お前の義父親(ちちおや)だ。
彼奴(あいつ)の事だ、口が裂けても言いやしないだろうが……同じ事をやれと言われても出来ないような事を、彼奴は独りでやってきたんだ」
「……はい」
 それは、解っている。
全体のうちの一部分だけであっても、想像を絶するほどの苦難に満ちた道程だったと知るには十分だった。
だというのに、誰にも頼らず――頼れずに、その通り心身を削ってやり遂げたのだから、平伏するしかない。
 あの人は、本当に肝心な事は何一つ言ってくれない。
父さんとの間柄を知ったのも、今まで何をしていたのかを知ったのも、つい最近だった。
「色々と、思う事はあるだろう。
だが、どうか恨んではくれるな。
……結は、色々と喪い過ぎて、色々と棄て過ぎた。
だから、お前に話すのが怖かったんだろう。
彼奴(あいつ)にとって、お前は唯一の『弱み』だからな」
 そして、チーフの台詞に思わず湧いた苦味で、舌が痺れた気がした。
ヒーターの暖気までも、冷気のように感じた。
「……元より、あの人を恨むつもりは、ありません」
 結果、返した言葉はみっとも無く掠れていた。
嘘でなく、あの人に対して、感謝はしても恨みなど抱いた事は無い。
それは、自身に対する無頓着さに閉口する事はあるが、そのくらいだ。
「ですが……あの人にとっての『弱み』は、父さんです。
俺じゃ、無い」
 けれど、『弱み』だと言われても――胸がつかえるような息苦しさばかりが勝った。
「……ああ、お前がそれでは、彼奴(あいつ)も言えやしないだろうな」
 対して、チーフは隠さずに嘆息をこぼした。
「だが、解らないでもない。
結は、肝心な事は何も言わないし、自分一人満身創痍になって事が済むなら、それが最良だと本気で信じている」
「……はい」
 さぞひどい顔をしているだろうと思えど、隠すほどの余力も無く、ただ相槌を返す。
その通り、あの人の行動理念は常に他者のためだった。
自分のためという理念を片っ端から棄てたのではないかと思うくらい、あの人は自分に対して哀しいほどに無頓着だった。
「お前の言う人物を、俺は知らない。
だから、それについては何も言わないし、訊きもしない。
だが、彼奴(あいつ)のために、これだけは言っておく」
 言い終えるなり、チーフは銜えていた煙草を火もつけないまま携帯灰皿に押し入れ、一呼吸を置いた。
「結の中では、お前が思ってるよりずっと、お前の存在は重い。
だってそうだろう? お前は、『生きている』んだ」
「――!」
 それは、この上無く解り易く、この上も無く重い言葉だった。
その言葉の意味と重さに、今すぐにでも車を降りて、何処へなりとも消えてしまいたい衝動に駆られた。
 けれど、それは出来ない。
そんな事をしたら――それこそ、俺は誰にも顔向け出来なくなってしまう。
「……お前がおっかなびっくりで構えてれば、彼奴(あいつ)だってそうなる。
もう、悪夢は終わったんだ。
もっと遠慮せずに、我侭言って、甘えれば良い。
嫁も子もいない俺が言っても説得力は無いだろうが、親子というのはそういう存在(もの)であるはずだろう?」
「……、はい……」
 返事を返すので精一杯だったが、それでもチーフは十分だと頷き、笑みを見せた。
組織に長年いるほどの人物となれば、妻子がなくとも色々とあったに違いない。
それを知る由は無いが、あの人に劣らぬほどに大きく優しい人だと、ただ改めてそう思った。
「まぁ、本当はもう少し様子を見るつもりだったんだが、他の連中が喧しくてな。
それなら、自分達で言えば良いものを、結が怖いから嫌だとぬかす。
俺としても、彼奴(あいつ)を怒らせるのは真っ平御免なんだがな」
 言いながら、チーフは再び懐のシガレットケースから煙草を取り出し、そのフィルタを噛んだ。
「……面倒をおかけして、申し訳ありませんでした」
「まぁ、貧乏くじなのは何時もの事だが、本気で結が怒った時にはよろしく頼む。
大丈夫だとは思うが……一度切れると凄いからな。
止められるのは、お前だけだ」
 改めて詫びれば、チーフは冗談めかした台詞とは裏腹に、至極真面目な顔でそう口にした。
「……善処します」
 確かに、あの人は滅多な事では怒らないが、その分怒ると洒落にならないのは事実だったので、ただそう答えておいた。
「……あと、最後に一つ。
これから行ってもらいたいところがある」
 言いながら、チーフはナビゲーションに目的地を入力し始めた。
それほど遠くない距離ではあるが、これといって気になるような建築物も無い。
不思議に思っていると、チーフはそのままドアロックを解除し、ドアを開けて外に出た。
「? 一緒に行かれないので?」
「ああ、遠慮しておく」
 苦笑と共に車を降り、ドアを閉めた後で、チーフは背を伸ばして向き直った。
「これは、『独り言』だが――彼奴(あいつ)は今頃、あのゲームで最後まで到達したボウヤ達に逢っているはずだ。
まぁ、ちょっとしたアフターケアという奴でな」
「!」
 そして、告げられた一言に、俺は息を呑んだ。
その言葉の意味を解らないと惚けられるほど、心の準備が出来ていなかった。
「……あのボウヤ達、人捜しをしていてな。
それ自体は別に良いんだが、相手が少々よろしくなかった。
何せ、実在しているがしてない、訳ありと来ている」
「――」
 何と答えるべきか、言葉に詰まる。
ただ、長身であるチーフが背を伸ばしてしまえば、お互いに顔は見えないだろう。
その気遣いに感謝した。
「お互い、生きるべき世界が違う。
だから、逢う事は出来ない。
そして、大人しくしていろなどと、言える義理も無い」
 ずっと心にわだかまっている事を代弁するように、チーフは淡々と言葉を並べる。
その言葉のどれもが、突き刺さるように重く圧し掛かった。
「何より、どんな顔をして、どんな風に言葉をかければいいのか解らない。
……お前の代弁をするなら、そんなところだろう」
 その通りだった。
彼等が知っているのは、あくまで『鈴原樹』であって『月ヶ瀬龍樹』ではない。
姿と名を偽った理由があるとはいえ、結果としては騙したと同じ――彼等がそれを許したとしても、逢える訳が無かった。
「……だが、このままでは捜しているボウヤ達が先に参ってしまいそうでな。
そこで、アフターケアとして、『ホワイトラビット』がメッセンジャーを買って出た訳だ」
「! な、ぜ……」
「黙っていろと言われたんだが、それも如何かと思ってな。
彼奴(あいつ)ならば、それこそ何事も無いかのように振舞えるだろうが、俺はそこまで器用でもない。
……後の答えは、本人に訊いて来い」
 そして、チーフは突き放すように告げて、踵を返した。
「今なら、間に合う。
これは、お前が訊くべき事だ」
「……、はい」
 色々と言いたい事はあったが、確かに今はチーフの言う通りだった。
落ち着いているとは言い難い状態だったが、今でなければ訊けないだろう事は確かだった。
「……行ってきます。
後で、愚痴くらいは聞いて下さい」
 そして、何度か深呼吸をした後で、腹を括った。
「ああ、聞いてやる。
行ってこい」
 踵を返したままで、返答が返ってくる。
それを合図に車を走らせた後で、バックミラーで見たチーフの表情は――何時かの父さんを思い出させた。

***

 ――目的地は、車で20分足らずの場所だった。
こうして見ると、彼等の住む町と俺達の住む町は、驚くほど近いのだと感じてしまう。
けれど、逢いに行く踏ん切りがつくかといえば……やはり、否だった。
 生きる世界が違うから距離を置くというのは、結局のところは言い訳だ。
あの日……喪う事の痛みと絶望を知ってから、俺は臆病になった。
確かに、強さを手に入れはしたが、それはあくまで上辺だけ。
俺は未だ、弱いままだった。
 それゆえに、心が定まらない。
臆病さや弱さを、ねじ伏せる事が出来ずにいる。
何度も自問と自答を繰り返したが、答えは結局同じ。
どんな顔をして、どんな風に言葉をかければいいのか解らない――チーフの言った一言が、それだった。
 組織の中には、その世界の境界を越えて共に生きる事を択んだ人達もいる。
けれど、その代償は確かに存在し、問うた事は無くとも決して小さくないのは想像に易い。
何よりも、それはお互いに生半(なまなか)な覚悟で出来る事ではない。
 その覚悟を、彼等もまた持っているのだろう。
だから、捜せる。
 それなのに、俺は未だにそれを持てずにいる。
そんな俺の弱さに、今思えば聡いあの人やチーフが気づかない訳が無い。
 あの人がわざわざ多忙な合間に自宅に帰っていたのも、実のところはそれが大きかったのかもしれない。
ただ、チーフの言う通りに、俺が引いていたから気を遣って様子を見ていたのだろう。
 思えば思うほど、自分が嫌になってくる。
いっそ、このまま何処かに走り去ってしまいたくなる。
けれど、それを顎を引いて堪え、圧し掛かる重さを振り払うように、周囲に視線を巡らせた。
 目的地に指定されたのは、住宅街から少し外れた人気の無い小路だった。
辺りに人気は無く、すっかりと日も落ちて暗くなり、視界が良いとは言えない。
何より、此処に来るまでに結構な時間が経過しているし、狭い道に車を停めておく訳にもいかない。
 さて、何処に車を置いて捜すべきか――そんな事を思った矢先だった。
コンコン、と控え目に助手席側の窓が叩かれたのは。
「――!」
 弾かれたようにそちらを見れば、白い手だけが窓の外に浮いていた。
実際には、衣装と背景が同化している所為でそう見えただけだが、その白く骨張った指先には見覚えがあった。
 一瞬の間を置いて、慌てて窓を開ければ、その人物は身を屈める事無く口を切った。
「チーフの仕業か」
 問いかけというより、確認のような呟きを洩らしたその声色は、確かに聞き覚えのあるものだった。
「……何時もながら、世話を焼いてくれる」
 そして、嘆息と共にこぼす。
けれど、その声色に怒りは無く、むしろ解っていたかのように穏やかだった。
この人の事だ、俺が来た時点で察したのだろう。
「結さん、」
「……すまないが、開けてくれるか?」
「! ごめん、今開ける」
 かける言葉を探している間に遮られた一言に、はっとする。
すぐにドアロックを解除すると、黒一色に身を包んだ見慣れた姿が助手席に滑り込んできた。
 まとう衣装は、確かに黒一色であの兎面の案内人を彷彿とさせたが、普段の見慣れているものだった。
その上、何処に隠しているのか、変装道具も見て取れない。
話を聞いていなければ、変装していたとは思えない辺り、流石だった。
 そして、伺い見た横顔もまた、普段通りで変化などは見られない。
しかし、そもそもこの人はおいそれと感情を見せるような人ではない。
俺は、再び顎を引いて腹を括った。
「……チーフから、色々聞いた」
「そうか」
 切り出すのに結構な気力を使ったというのに、その返答はあっさりとしていた。
けれど、それはもう隠すつもりは無いという肯定でもあった。
「オマエに何も言わずに置いたのは、先ず謝ろう。
すまなかった」
「……いや、それは……良いんだ」
 とはいえど、チーフが言わなければ黙っていたのだろう。
しかし、そんな事をさせたのは、結局のところは俺だ。
なればこそ、それを責める事など出来るはずも無かった。
「彼等には、周囲の者達がちゃんと手を差し伸べてくれる。
だから、心配は要らないだろう。
後は、オマエの心次第だ」
 一瞥さえくれず、ただ結論だけを静かに告げる。
その横顔に浮かぶのは、やはり何時も通りの凛としたそれで、動揺などは見て取れなかった。
「……如何して、そこまで……」
 俺の問いかけは、無様にかすれていた。
「オマエを日陰に引き入れたのは、私だ。
そして、あのゲームに彼等を択んだのも、ある意味私だ。
ならば、負うべき責は負わねばならないし、果たさねばなるまい」
 だというのに、その返答には全くの揺らぎが無かった。
実際、この人は己の為すべき事をちゃんと果たしてきた。
「……俺は……」
 けれど、俺には未だ、答えが出せない。
「焦る必要は無い。
誰にでも、恐れや迷いはある。
オマエはただ、それが彼等より多いだけだ」
 そうだろうか。
それだけだろうか。
廻(めぐ)る思考に答えをあぐねいていれば、結さんがふと自嘲に似た笑みを漏らした。
「……私にも、覚えがある。
約束の日の前――父が亡くなり、母が倒れた時に、尚也に逢いたくなってな。
その頃の私は、未だこの世界にはいなかったが……それでも、相当悩んだものだ」
 正直、驚いた。
この人は、本当に自分の事を話すような人ではないし、父さんの事となれば尚更だった。
なればこそ、聞き逃すべきではないと、俺は耳を傾けた。
「結局、悩んだ末に逢わずにいた。
この道に入ってからは、それこそどの面を下げて逢えるものかと――約束の日にも、行くべきか否かと迷いさえした。
だが、今思えば一目でも逢っておけば良かったと、そう悔いている。
……後に悔いるから『後悔』とは、言ったものだ」
 その端正な容貌は、ただ凪いでいた。
恐らく内心まで穏やかであろうはずは無いだろうに、そんな片鱗すら見せず、嵐の最中の深海のようだと思った。
「臆病さや弱さを恥じる必要は無い。
逃げを打つのもな。
恥じる必要があるとしたら、それは……己の心を偽って何もしなかった時だ」
 その言葉は、何処までも重かった。
口調や表情に起伏など見られないのが、逆に辛かった。
この人は、今までそうやって本心をひた隠し、押し殺してきたのだと解ったから。
「結、さん……俺は……」
「時間をかけて良い。
何時か、その心が定まった時で良い。
だが、龍樹――どうか、私のようにはなってくれるな」
 そして、消え入るような笑みと共に、言葉を締め括った。
この言葉を告げるために、どれだけの時間と気力を要するのか、検討もつかない。
「――、」
 思えば思うほどに、言葉など出てくる訳が無かった。
だから、ただ頷いた。
「……それで良い」
 そして、伸びてきた手が、頭を撫ぜる。
あの日差し出された時と同じ、あたたかな手だった。
 父さんが、この人に出逢えて良かった。
この人が、父さんに出逢えて良かった。
本当に、そう思う。

 ――答えは、出ない。
何時出るのかも、解らない。
けれど、この人や父さんに恥じない選択をしようと、そう強く思った。

***

龍樹は愁夜達以上に色々思う事があるだろうと書いていたら、大分長くなりましたorz
文才とかそんなものは無い!!ので、ご容赦下さい。
尚、チーフは人種的には背が高くて色素が薄い、北のゲルマン人っぽい感じです。
外見イメージは未だ固まっていませんが、結や龍樹とは違う方向の美丈夫になるかなと。
もっと変人っぽくても良いかなとも思いましたが、組織の縁の下の力持ちかつ良心ポジなので、マトモにしました。
あと、本文通り本名はちゃんとありますが、誰も呼ばないので呼称が本名みたいになっています。
というか、ぶっちゃけチーフの本名を考えてません。
すまないと思っている。
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KUROZ

Author:KUROZ
黒いまめっぽいナマモノ。
最近、珈琲がうめぇ。
禿げ散らかすのが気になるお年頃。
まめっぷ。

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