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サルベージ小話

夏に書きかけてたブツがあったので、サルベージして加筆してみました。
全文そのままに付け足しただけなので、季節的に色々とアレですが、小話を書き終えるまでの繋ぎ程度にご覧下さい。

尚、キャラもネタも色々ヒドいのでご了承下さい。
また、ネタバレ考慮しておりませんので、各作品をクリア済みを推奨します。
新作キャラが出ている点にもご注意下さい。
このブログで以前書いたオールキャラ鍋話を既読済みの方が良いかもしれません。
新作キャラについても、そちらに載っています。
鍋話は、此方からどうぞ>オールキャラ・ネタ小話
そんな感じで、大丈夫だよ!という方は折り曲げからどうぞ。

 

※無断流用・転載厳禁です。

突然ですが、もやハムです。


※セイタロウ視点です。

***

 ――パラケルススさんは、名前のややこしさも然る事ながら、本当に自重して欲しいと思った。
今日ばかりは、真面目にそう思った。
「もきゅ!」
 ぼく達――神代さんと宮川さんとぼくの目の前に、黄色い毛色のゴールデンハムスターが立っていた。
その大きさは、手のひらサイズ。
プリンのような淡い毛色とくりっとした円らな眼(まなこ)は、実に可愛らしい。
「だが、シノメだろ?」
 神代さんが、誰にともなく呟いた。
ぼくの台詞を代弁したかのようで、思わずやんわりとその横顔を見たら、目が濁り切っていた。
「シノメクンダネ」
 その向こうの宮川さんも、見た事が無いようなしょっぱい笑顔を貼り付けていた。
ぼくは、そっとそのゴールデンハムスターを手のひらに乗せた。
そう、結論から言えば、このハムスターはシノメくんだった。

***

 ――今日は、暑い日だった。
皆が皆、脳味噌が程好く蕩(とろ)けていた。
ぼくだって、結構蕩けていた。
 そこで、皆で図書館でも行こうかという話になった。
シノメくんや宮川さん渋ったが、涼しいの一押しで決定した。
暑さの前に、人間は無力だった。
 そうして、ぼく達はコンビニで待ち合わせ、日陰を渡りながらのろのろと図書館に向かった。
ひっそりと物申せば、半そでになった神代さんの腕はスゴかった。
 あの、文芸部とか嘘ですよね?とか思わず問いかけそうになったくらいに、アレだった。
シノメくんがガン見していたものの、ぼくには咎められなかった。
 そして、ショートパンツの宮川さんの足もスゴかった。
何か、色気を排除して速さを追及したような感じになっていた。
 悔しいほどの筋肉率だった。
ぼくとシノメくんは、二人からそっと距離を置いて歩いた。
 だから、油断していた。
そりゃもう、ノーガードなくらいに油断していた。
「やぁ、暑いね」
 そんな時に、彼とエンカウントしてしまった。
このクソ暑いのに、真っ赤なマントを羽織っている彼は、やっぱり変態だった。
だけど、ドン引きするぼく達にもめげず、彼はマントからスッとそれを差し出した。
「そ、それは……!?」
 ノーラベルとはいえ知り合いにキンキンに冷えたドリンクを差し出されれば、警戒心も薄れるのが人の性。
胡散臭い魔術師と知りながらも、人は手を伸ばさずにいられなかった。
それは、実に――そう、まさしく馬の前の人参、宮川科の前の肉だった。
 ……結果から言えば、意外にも宮川さんよりシノメくんの方が手が速かった。
だから、こうなった。
それだけだった。
「うん、成功だね!! あ、でも大丈夫だよ。
そのうち戻るからね」
 そして、元凶はにくったらしいアルカイックスマイルを浮かべたまま、捕まえる間も無く何処かへ消えた。
このような失態をするなんて……夏の暑さがニクい。

***

 ――などと、そんな回想をぼんやりとしながら、ぼくは手のひらの上のハムスターを見る。
持っていた荷物と服が何処に行ったのかは謎のまま、彼だけがハムスターだった。
でたらめなのは、やっぱりやらかした犯人が人間を止めているからなんだろうか。
「もきゅぅ……」
 シノメくんは反省しているらしく、耳とハムスター化しても尚健在のアイディンティティがしおれていた。
確かに、彼は迂闊だった。
けれど、今のぼくには彼を責める気にはなれなかった――筋肉と暑さの所為だもの。
「如何しよっか……?」
 我が身に起こっていたかもしれない宮川さんが、そっと問いかけた。
「……まぁ、そのうち元に戻るんなら大丈夫だろう。
あの人だって、そこまで鬼でもないはずだ。
でも、何時戻るか解らないのがな。
図書館でいきなり戻られたら……困るよな」
 流石、暑さで脳が蕩け気味でも神代さんはマトモだった。
「でも、とりあえずは涼しいところに行きたいですよね。
このままでは、シノメくんが蕩けてしまいます」
 現在、34℃を越えそうな勢いの猛暑。
ハムスターであるシノメくんは、毛皮をまとっている。
今でさえ、もうフラフラ――明らかに、死亡フラグだった。
「だ、だけど、この辺で涼しくて人目の無いところなんてあるの?」
 宮川さんが、珍しく鋭いところを突いた。
言われてみれば、そんな都合の良いところがある訳が無い。
「そうだよな。
なら、せめて人目だけでも避けたいが……」
 神代さんもその逞しい両腕を組んで唸る。
真面目な話、ぼくより二周りくらい腕が太い。
文芸部が如何してこうなった。
「人目だけなら、家でも良いかもだけど……暑いよね」
 そして、ぼくの代わりに宮川さんがぼやいた
確かに、それでは本末転倒……と、そこで、ぼくはふと思い出した。
「人目が無くて涼しい場所っていえば、トンネルとか」
「え、トンネル? 心霊スポット!?」
 ぼくが言えば、早速宮川さんが妙なところに食いついた。
「そういう訳じゃないですよ。
隣町の山の入り口付近に古いトンネルがあって、そこが涼しいんだよって近所のおじさんから聞いたんです」
 散策が趣味だという近所のおじさんは、なかなかの良い穴場を知っている。
だから、ふと思い出した事だった。
「そうなんだ。
でも、涼しいなら良いね!」
 少し残念そうな顔をしながらも、宮川さんは早く行きたいと言わんばかりだ。
「シノメがそろそろ死にそうだから、そこにするか」
 そして、神代さんも頷いた。
視線の先では、シノメくんが夏に放置した大福餅のようにべちゃりとしていた。
うん、これはマズい。
「そうしましょう」
 ぼく達は、目的地を変更して、古いトンネルを目指す事になった。
「じゃあ、行こう! あ、ちょっと待って!
マスドあるよ! マスド行こう!!」
 そして、宮川さんは何というかアレだった。
「……悪いな、セイタロウ。
ウチの宮川科霊長目がアレで」
「いえ、何時もの事ですから」
 遠くで呼んでくる宮川さんにぬるい笑みを返しつつ、ぼく達もまたのらりくらりと歩き出した。
シノメくんはといえば、ぼくの手提げバッグに一時入ってもらう事になった。
 余談ではあるけれど、この後に宮川さんに教育的指導が入ったのは言うまでもない。

***

 そして、ぼく達は古い名も無きトンネルへとやってきた。
少し山の中に入ったところにあるそのトンネルは、こじんまりとしていてそれほど長くも無い。
道も舗装されたところもあれば砂利もあって、今では山に散策に来る人達が通るくらいなのだろうと思わせた。
「あ! 涼しい!」
 そのトンネルに入りながら、宮川さんが声を上げた。
幸いにも人気は無く、確かに入ってみるとひんやりとしていた。
「ああ、部屋にいるよりずっと涼しいな」
 神代さんの言う通り、山風が丁度良い具合で程よく涼しい。
これなら、シノメくんも大丈夫だろう。
「ホントですね、良い穴場ですよ」
 言いながら、ぼくは手提げバッグに入れていたシノメくんを出してあげた。
「もきゅ」
 チョコチョコと四足歩行で出てきたシノメくんは、少し歩いた後で立ち上がった。
その様は、まさしく野生(?)のげっ歯類だった。
「何というか、ハムスターだな」
「ええ、ハムスターですね」
 神代さんとぼくは、ぬるい笑顔でシノメくんを見守った。
「だけど、何時戻るんだろうねぇ」
 宮川さんもやってきて、同じようにチョコチョコと歩くシノメくんを見やりながら呟いた。
「……さぁ、何ともなぁ……」
 神代さんが、スゴく溜めてから嘆息した。
「何とも言えませんよね……すぐ戻れば良いんですけど」
 ぼくもそう言うしかなかった。
全く以って、あの紅いタヌキは如何しようもない。
「……あとで結さんにシメてもらいましょうか」
 思い出したらイラッとしてきて、ぼくは思わずそう言ってしまった。
「そうだな」
「そうだね」
「もき」
 だけど、反論は無かった。
だから、良しにした。
 でも、無関係なのに申し訳ないものの、実際にあの紅いタヌキをシメられそうなのはあの人くらいだ。
そんなあの人も息子さん共々ちょっと人類か怪しいところもあるけれど、人格的にはマトモだから安定感がある。
「まぁ、色々ありましたけど、山も良いですよね」
 そして、やっと一息吐いた後で、ぼくは二人に振った。
「うん、山も良いよね。
……スゴ~くフツウのお散歩だけなら、スゴ~く楽しいよね、アハ、アハハハ……」
「そうだな。
……落とし穴とか罠とかアレな人とか出なければ良いもんだよ……」
 何故だろう、宮川さんが空ろな目で乾いた笑い声をあげ、神代さんが何処か死んだ魚のような目でブツブツと呟いた。
 ぼくは如何やら、二人の地雷を踏み抜いたらしい。
そっとしておく事にした。
「もきもき」
 一方で、シノメくんは短い手足で道の端に生えている草の方に歩いていき、そのままぺたりと蹲った。
ああ、お腹を冷やしてるんだなと思いながら、何か行動までげっ歯類だなあと微笑ましくなった。
「折角だし、ちょっと腹ごしらえする?」
 とか言いながら、復活と同時にリュックをごそごそとやっているのは、安定の宮川科さんだった。
ヘコんでいた貴方は何処へ行ったんだろう。
「……まぁ、そうだな。
涼しいし、予定も無いし、暫く休むとするか」
 神代さんの方は、未だちょっと目が死んでいた。
どれほどのトラウマなのだろうか。
「そうですね」
「やった!」
 飼主――もとい、神代さんから許可が下りたところで、宮川さんは嬉々としながらマスド定番のポポンリングを取り出した。
 因みに、ぼくはエンゼルドーナッツとポポンリングの黒糖を1つずつ。
神代さんは、オールドドーナッツとプレーンスコーンが1つずつ。
宮川さんは、ポポンリングを5つとストロベリードーナッツを5つ――流石だった。
 そして、ぼく達はシノメくんと同じように端の草わらに座り込み、小腹を満たすべくドーナッツと飲み物を取り出した。
 尚、宮川さんのご希望でお昼も購入済みだったりする。
急ぐ訳でもないし、何時戻るかも解らないのでまぁいいかと飼主さんが折れた結果であるのは内緒だ。
「でもまぁ、本当にこういうところも悪くないよな」
「そうですね。
涼しいし、人気も無いし良いですね」
 神代さんに頷きながら、ぼくは近所のおじさんに会ったらお礼を言っておこうと思った。
「シノメくんは、何が好きなんだっけ?」
 そして、ポポンリングを手にしながら、宮川さんが振ってきた。
「もきもき」
 シノメくんはといえば、ぼくがあげた黒糖のポポンリングをほほ袋につめていた。
ああ、すっかりげっ歯類に染まってしまって。
「シノメくんは、ポポンリング系とアップルパイをよく買ってましたよ。
あとは、チュロスなんかも好きですね」
「ふーん、そふなんひゃぁ」
「食いながらしゃべるな」
「ひゃい」
 相変わらず、宮川さんは残念な女子で神代さんは苦労が絶えないなと思った。
とはいえ、帰子さんのように淑女な宮川さんというのは想像出来なかったので、ぼくは考えるのを止めた。
「もき」
 一方のシノメくんはといえば、ほほ袋をいっぱいにして満足したらしく、また草の中に蹲っている。
これからゆっくり食べるらしい。
すっかりげっ歯類だった。

***

 それから、ぼく達はトンネルで涼みながら与太話をしつつ、シノメくんが戻るのを待っていた。
時間で言えば、紅いタヌキに遭遇してからは2時間くらい経っただろうか。
そろそろと正午に差し掛かり、宮川科さんの腹の虫が牙を向く頃かもしれないと思い始めた時だった。
 ガサリ
 不意に、近くで物音がした。
「あれ? 何か音がしたよ?」
 宮川さんが真っ先に反応した。
「したな」
「ですね」
 ぼく達もそれに頷く。
風で揺れたにしては、大きな音だった。
 ガサガサ
「!」
 今度は、はっきりと聞こえた。
小型の小動物とは思えない音だった。
「……ク、クマ?」
 宮川さんが小声で口にした。
「……無い、と言えないのが哀しいところだな」
 神代さんが真顔で呟いた。
「……シノメくん、ちょっとごめん。
バッグに入っててね」
「もきゅ」
 すぐ動けるように、ぼくはシノメくんにバッグに入ってもらった。
そうする間にも、物音は近づいてきているようだ。
 ガサガサ、ガサッ
「……ど、如何しよ? 逃げる?」
 宮川さんが問いかける。
「その方が安全だろう。
結さんや龍樹さんみたいに、こっちから狩りに行ける訳じゃないからな」
 神代さんもそれに頷いた。
「ご尤もです」
 というか、それについてはあの人達が割とオカシイと思う。
「いざとなったら、あーさ、お前が囮になれ」
 そして、神代さんが真顔で無茶を振った。
「ご無体!?」
 宮川さんが凄い速度で振り返った。
「そうですね、頑張って下さい」
「もき!」
 だけど、宮川さんの腿の筋肉なら頑張れそうだったので応援する事にした。
「ヒドいよ!」
「よし、そろそろ行くぞ。
静かにな」
「はい」
 そうして、喚く宮川さんを他所に、ぼく達は頷き合った。
「あたしを何だと思ってるんだろ……」
 その後ろで、宮川さんがのの字を描いていたけれど、するっとスルーした。
とはいえ、宮川さんは本当に速いので、野生動物相手でも頑張れると割と本気で思ってもいる。
 それはさて置き、ぼく達はゆっくりと音を立てないようにトンネルを離れた。
それから、約50メートルほど距離を取った辺りで、木陰に隠れて様子を伺った。
「……まぁ、ホントに熊だったら、なぁ?」
 神代さんが誰にともなく振った。
「イイよね、お肉になるよね!」
 宮川さんがよだれを垂らしながら頷いた。
残念な女子だった。
「もき!」
 ついでに、シノメくんも乗り気だった。
「ですが、狩人がおりませんよ」
 そこで、ぼくは現実を告げた。
「大丈夫だ、メルアドなら知ってる」
 だけど、神代さんが良い笑顔で答えた。
それならば、話は違う。
「そうですか。
じゃあ、大丈夫ですね」
「美味しかったもんね」
「美味かったよな」
「もき」
 人間の欲望は、時には突き抜けるという事を知った夏だった――などと思い馳せていると、ついにトンネルの向こうの草が揺れた。
 ガサッ、ガサッ
 ぼく達は、口を閉じて身を隠した。
そして、待つ事しばし――。
「イヤー マイッタ マイッタ!」
 出てきたのは、にくはにくでもにくったらしいアイツだった。
「‥‥‥」
 ぼく達の間に、明らかな落胆がぼとりと落ちた。
「えっと、アレって……おにくちゃん、だよね? 何でいるの?」
 宮川さんが先ず我に返った。
そう、ヤツは普段はあの世かはぐれた想いが溢れる異世界にいるはず。
だというのに、何故。
「時に、セイタロウ」
 それから、神代さんが口を開いた。
「はい」
 ぼくは、頷いた。
「その胡椒、何処から出てきたんだ?」
「ヒミツです」
 その問いに、ぼくは視線をそらした。
どうか、訊かないで欲しかった。
「そうか」
 それを察してか、神代さんは追及しなかった。
「おにくちゃん、何してるの?」
 そんなぼく達を他所に、宮川さんがにくったらしいアイツに話しかけた。
「オ? オオ コムスメ デハナイカ!
コゾウタチモ キグウダナ!」
訳:お? おお 小娘 ではないか!
小僧達も 奇遇だな!
 対するアイツは、手と思しき物体を振っている。
「奇遇だなじゃないだろ」
 そんなにくましいソイツめがけて、ぼくはコショウを全力でぶちまけた。
「アベシッ!!」
 にくったらしいアイツは、目を押さえてビタンビタンとのたうち回った。
「うわぁ……」
「盛大にいったな」
 その後ろで、宮川さんの引いた声と神代さんの冷静な声がした。
やがて、にくましいアイツは何故か息を切らせてニヤリとした――ように見えた。
「ハァハァ アイカワラズ ハゲシイ コゾウヨ……!」
訳:ハァハァ 相変わらず 激しい 小僧よ……!
「誤解を招く言い方は止めてくれないかな。
で、何でいるの?」
「ウム チョット デグチヲ マチガエタノダ」
訳:うむ ちょっと 出口を 間違えたのだ。
「いや、ちょっとの間違いでこっちに来られても困るから」
「そうだね、心霊スポットになっちゃうよね!」
 ぼくのツッコミの背後で、宮川さんがズレた事を言った。
「ソレナラ アンシンシロ!
オレハ オレタチハ フツウハ ミエン!」
訳:それなら 安心しろ!
オレは オレ達は フツウは 見えん!
「なら、何で俺達は見えるんだ?」
「ヒミツだ!」
 そして、にくったらしいアイツは意気揚々と神代さんの疑問に答えた。
「‥‥‥」
「アウチィッ!!!」
 ぼくは、無言で再度コショウをぶちまけた。
そして、またアイツは目を押さえてベタンベタンとのたうち転がった。
「ハフゥ コノシゲキ タマランナ!」
 のだけど、何処か嬉しそうに見えた。
キモい。
「ハァハァ アイカワラズ シャレノ ワカラン ヤツヨ。
ハテ? ソレニシテモ ヒトリ タリンナ?」
訳:ハァハァ 相変わらず 洒落の 解らん ヤツよ。
はて? それにしても 一人 足りんな?
「いるにはいるよ。
ただ、紅いタヌキの所為でげっ歯類にされたけどね」
「もき」
 やがて、復活したにアイツにぼくはシノメくんを見せた。
「治し方とか知ってる?」
 そして、アイツに宮川さんがそれとなく振った。
言われてみれば、案外博識だったのだと思い出す。
「ウム シッテルゾ」
 意外にも、あっさりとにくたらしいアイツは頷いた。
「……本当か? 悪化するようなのは御免だぞ」
 神代さんが、実に胡散臭そうに問い返した。
ぼくとしても同意だった。
「マァ マァ ダマサレタト オモッテ オレノ テヲ カジッテミロ!」
訳:まぁ まぁ 騙されたと 思って オレの 手を 齧ってみろ!
 本人曰く手だというそれは、如何見ても触手と呼ばれるソレだ。
「‥‥‥」
 思わず、ぼく達は無言になった。
騙されている気がしてならないが、だからといって騙しても得は無いのも事実。
「もき!」
 やがて、迷うぼく達に宣言するように、シノメくんが一鳴きし――。
「! 跳んだよ!」
 そう、跳んだ。
とはいえ、実際にはぼくの手から落ちて、そのにくあつなボディに落ちたともいうのだけど。
「いくのか、シノメ」
 神代さんがちょっと遠い目で呟いた。
「もき」
 シノメくんもまた、頷いた。
「まぁ、シノメくんがそう言うなら……」
 そういう事で、ぼくも同じように生ぬるく見守る事にした。
「サァ ガブットナ!」
「もき」
 そして、シノメくんはアイツに促され、にくましいそのボディに歯を立てた。
――と。
 ぽむん
 何とも可愛らしい音を立て、シノメくんの姿が呆気ないくらい簡単に元に戻った。
「もッ、ももももも、戻ったよ!!??」
 宮川さんは、凄い勢いでテンパった。
「ああ、服や荷物も込みなんだな……」
 神代さんは、目の付け所が違った。
「おお!? マジだ! 戻ったよ、せーたろー!!」
 そして、シノメくんがにくましいボディから離れて、駆け寄ってきた。
「良かったね、シノメくん」
 その事に、ぼくは素直に喜ぶ事にした。
「だけど、何でなの?」
 とはいえ、疑問は残っていたので、そのままウンウンと頷くアイツに問いかけた。
「オレノ ニクハ クスリニ ナルカラナ。
マァ ソウイウ アレダ」
訳:オレの ニクは 薬に なるからな。
まぁ そういう アレだ。
 そういうアレでは仕方が無いなと思った。
「いやでも、見た目とは違ってナンかウマかったっすよ」
「へぇぇぇ、そうなんだ……」
 そして、シノメくんの発言を受けて、宮川さんは頷きながらもそのにくあつボディをじっと見つめていた。
ぼくは、それを見なかった事にした。
「何はともあれ、戻れて良かったな」
「はい、ご迷惑をおかけしたっす!」
「今度からは気をつけてね、特にパラケルススさんには」
「うん、そうするよ」
 やがて、元に戻れた事を喜ぶぼく達を他所に、宮川さんはそっとアイツに近づいた。
「おにくちゃんって、実は美味しいの?」
 そして、肉食の目で問いかけた。
「フフフ クッテミルカ? タダシ オレヲ ツカマエタラナ!」
訳:フフフ 食ってみるか? ただし オレを 捕まえたらな!
対するアイツもまた、挑発的な台詞を投げかけた。
「その挑戦、受けるよ!」
 そして、宮川さんがずびしぃ!と人指し指を突きつけた。
「ヨカロウ!」
 アイツもまた、それに応じた。
何時しか、涼みに来たはずが肉食系ナマモノ達のにくましい肉宴になろうとしていた。
「……神代先輩、止めないんすか?」
 濁った目で、シノメくんが問いかけた。
「めんどくせぇ」
 神代さんは、ざっくりと言い捨てた。
「じゃあ、ぼく達は図書館にでも行きますか?」
 ぼくとしても同意だったので、提案した。
「ああ、そうしよう」
 そして、神代さんはあっさりと踵を返した。
「い、良いの?」
「シノメくん、世の中には放っておいた方が良い事もあるんだよ」
 挙動不審になるシノメくんに、ぼくは言い聞かせた。
「まぁ、何かあったら紅いあの人と一緒に結さんにシメてもらえば良いだろ」
 先を歩きながら、振り返りもせずに神代さんが言った。
「それもそうっすね!」
 そして、シノメくんも何も見なかったような晴れやかな顔で頷いた。
「そうそう、行こ行こ」
 ぼくもまた後に続き、後には肉食系ナマモノ達だけが残された。
その後、謎の奇声を背後で聞いたような気がしたけれど、ぼく達はぬるっとスルーした。

 ――後日。
紅いタヌキとにくましいアイツと宮川科霊長目さんが、結さんに呼び出されたと風の噂で聞いた。
 何が起きたのかは、誰も口にしなかったので解らない。
解らないものの、すっかりと牙やアイディンティティを圧し折られた彼等の姿を見るに、当分は平和だろう事は確かだった。

***

夏の暑さにやられた脳で書いてたので、色々カオスで申し訳ない。
でも、紅いタヌキさんは割りと重い人生歩いていたのに、人間止めて吹っ切れたようで愉しそうです。
ついでに、にくましいアイツのにくが薬になるというのは、とある伝承的に本当のようです。

尚、トンネルは灯籠トンネルとは関係ありません。
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KUROZ

Author:KUROZ
黒いまめっぽいナマモノ。
最近、珈琲がうめぇ。
禿げ散らかすのが気になるお年頃。
まめっぷ。

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