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連載小話・十話

ちょっと所用があったもので、遅くなりまして申し訳ないです。
何時の間にやら、思いつきで始めた連載も結構な数になったものです。
未だ暫く続きますが、終わりまでお付き合い頂ければ是幸いでございます。

では、興味のある方のみ、折り曲げからどうぞ。

 

※無断流用・転載厳禁です。

十話・突入・四


※龍樹視点です。

***

 ――足を踏み入れた薄墨山は、鬱蒼とした闇に包まれていた。
辺りの気配を探っても生物の気配は無く、鳴き声一つしない。
 響くのは、俺達が踏んでいる草葉(くさば)の音のみ。
ただただ、不気味な静寂に支配されていた。
 だが、俺もこの人も、今更そんな事に臆するほど常人ではない。
警戒だけは怠らず、俺達は静かな山道をライト片手にゆっくりと歩いていた。
「静かだな」
 ぽつりと、結さんが口を切った。
「……うん」
 俺もまた、ただ相槌を打つ。
実際、耳に痛いほど、辺りは静まり返っていた。
 そして、会話は途切れ、また草葉を踏む音だけが残る。
その間を繋ぐように、俺はふと先ほどのやり取りを思い出していた。

 神代達やチーフと別れ、薄墨山に向かう前の事だ。
「龍、解っているとは思うが、殺気は抑えるように」
 夜闇に紛れて夜道を歩きながら、結さんがやんわりと口にした。
「……貴方こそ」
 それに対して、言外に切り返せば、口許だけで笑う気配。
「無論、承知している。
悪手は打たんよ」
 ああ、知っている――そう口の中で転がしながら、我ながら野暮だったと思い至る。
そも、俺がこの人に対して言える事など、然程も無いのに。
 だが、それはそれと今は置いておく。
今のうちに、訊かねばならない事があった。
「しかし、俺達が山に入った時点で、逆平達の関係者であると知られる可能性が高い。
あまりにも、タイミングが良過ぎる。
……それについては?」
 その疑問を、改めて口にした。
神代達が気にし過ぎてもいけないと黙っていたが、今ならば訊ける。
 何せ、相手は怪異だ。
俺もこの人もチーフのように視得る方ではないため、人間相手とは勝手が違う。
「心配せずとも、この状況ならば、相手は間違いなく此方の策に乗る。
自分の領域を構築している上に、本命の獲物がかかっているのだから。
その上で我々が来たとなれば、捨て置きはしないだろう。
我々の正体が正しくバレているのなら、話は別だがね」
 此方を一瞥し、相も変らぬ涼しい顔で朗々と返す。
つまりは、それら全て策のうちという事か。
 だが、もしもの選択を択ばないとも限らない。
現場では、あらゆる事変を想定しろ――そう教えてくれたのは、この人だ。
「……もし、捨て置かれたり、逃げられたりしたら?」
「それは、無いな」
 念のためにと問えば、返答は即だった。
「何故?」
「そも、相手は人間に化けるほどの怪異だ。
愚か者であれば、わざわざこんな時間と手のかかる真似はしない。
切れ者であれば、山に誘うよりも学校や町中で罠をかけた方が獲物の数も余興の愉しみも十分得られる。
それをして、相手は変わり者で狙いがあって、此処に結界を布(し)いているように見える。
なれば、邪魔をされるのは好まないはずだ」
「……なるほど」
 言われてみれば、そう思えてくるから不思議なものだ。
実際、怪異というのは、大体にして狡猾で卑怯かつ残忍であり、人間を餌と思っている。
 時には、あの肉塊のような不可解な存在もいるが……あくまで、アレはイレギュラーだ。
 それを思えば、大人数ならいざしらず、ただ二人を泳がせているのは、確かにおかしい。
何か狙いがあるという方が、合点もいく。
「目をつけたのはたまたまだとして、此処まで仕込みをする事が妙だ。
彼等のどちらか――或いは、両方に興味が引かれる『何か』があるのではないかと、私は思っている。
ただ、危惧すべき事があるとしたら、相手に勘付かれて二人に危険が及ぶ事か」
 この人の事だ、俺が神代から受けた話を聞いて、調べを進める過程で勘付いたに違いない。
俺と同じく、神代達の事を思って伏せていたのだろう。
 何時もながら、薄ら寒いほどの炯眼(けいがん)だ。
その双眸には、何処まで視えているのか……俺には、想像もつかない。
「しかし、それについては、チーフも十分に察しているはず。
彼に任せておけば、愁夜さん達は大丈夫だろう。
……だが、あの子達に話すには少々刺激が強い。
この話は、出来れば我々だけで留めておきたいところだ」
「……うん、」
 計画して騙すなど狡(こす)い――そう言っていたのを思い出し、少々心苦しさを覚えながら相槌を打つ。
 彼等は、俺達とは違う。
あの二人に狙われる要素があって、その所為でこうなったなどと、知りたくもない事だろう。
 世には、知るべき事もあるが、知らなくともいい事もある。
とはいえど、そう言い切れるほどに俺も未だ、物事を整理し切れていないのだが。
「あの時と今では、状況が違うだろう。
オマエは、深く考え過ぎる……そんなところばかり、私に似るのだからな」
 そんな俺の心情を見て取ったように、結さんが苦笑した。
「……貴方の子なんだ、似もする」
 我ながら、拗ねたような口振りになってしまったが、それも仕方ない。
 父さんや母さんの事は忘れはしないし、今も敬愛している。
でも、二人はもうこの世にはいない。
 そして、神代達も掛け替えの無い存在ではあるが、やはりベクトルが違うし、未だ気持ちの整理もついていない。
 チーフも確かに尊敬に値する人だが、寄りかかれる存在かと問われると少し違う。
 そんな俺にとっては、この人が唯一の家族であり、拠り所なのだ。
「……そうか、それでは仕方ない」
 それを察してか、結さんは目を細め、ただ相槌を打つ。
俺もまた、それ以上は何も言わなかった。
「……では、最終確認だ。
あくまで、あの子達の救出が第一。
相手の目的は、二の次で良い。
私達は、時間稼ぎと囮に専念する」
「了解」
 その静かな声に頷く頃には、目的地は目の前だった。
夜目に慣れた視界には、暗がりの中に山道がぼんやりと浮かび上がっている。
「山に入る前に、ライトを点けて行こうか。
ライトも点けずに入ったのでは、訝しがられる恐れもある」
「……あぁ、確かに」
 結さんの言葉に一つ頷きつつ、俺は携帯していたライトを手にした。
常備はしているものの、使うという発想が遅れてくる辺り、慣れというのは恐ろしい。

 そんなやり取りを経て、俺達は今、山の中を進んでいる。
今のところは、静かなばかりで動きは無い。
「時に、龍よ。
オマエは、此処の謂(いわ)れを知っているか?」
 ふと、回想の切れ目を察したように、結さんが問いを投げてきた。
「……いや」
 それに対し、俺のこの山に関する知識は、神代と然して変わらなかったため、否を返す。
「薄墨桜(うすずみざくら)という桜があるだろう?
此処は、大昔はその薄墨桜の名所だったという。
それが、元々の謂れだ」
「……元々は?」
 その含みのある言い方に問い返せば、結さんは言葉を続けた。
「百数十年あまり前になるか……過去のある日、山火事が起きたそうだ。
その所為で、殆んどの桜が焼けてしまったそうでね。
後に桜を植えるも枯れてしまい、結局は雑木林となって今に至っている。
だから、今のこの山には由来になるほどの桜は無い」
「では、別の謂れは?」
 言われてみれば、今まで歩いてきた間に桜の木は見られなかった事を思い出しつつ、俺は更に問うた。
「山火事から暫く経った頃、火事をまぬがれた、山に住む木こりの夫婦がこう言い出したんだ。
『貂(テン)を殺したから、火難(かなん)に遭ったのだ』と」
 そして、結さんは正面を見据えたままで答えた。
「……貂(テン)というと、イタチ科の?」
「そう、その貂(テン)だ。
貂(テン)は、場所によってはイタチが数百年も生きた際、力を得てそう成り変わるとも言われている動物でね」
 結さんは、俺の言葉に頷きながら、ふと立ち止まった。
つられて歩みを止めると、その顔がゆっくりと此方を見る。
「『殺した貂(テン)が化けて出てきて、山を焼き払ったのだ。今度は、此方が復讐されるに違いない』――その夫婦は、更にそう言い募ったという」
「……でも、それを他の者は信じたのか?」
 問えば、結さんは首を横に振った。
「いや、初めは誰も信じなかったらしい。
当然だ、あくまで貂(テン)は貂(テン)という動物であって、怪異ではないのだから」
 それはそうだろう、と思う。
 昔とはいえ、余程信心深いか実在したかでもなければ、そんな荒唐無稽な言葉をすんなりとは信じないだろう。
俺とて、普通は信じない。
 そんな内心を見て取ったように、結さんは続けた。
「……だが、それもある時から一転した。
山の焼け跡に薄墨色の奇妙な獣が棲み着いた所為でね」
「! まさか……」
「さぁ、如何だか。
これは、あくまでかつての謂れに過ぎない。
その後に如何なったのかも、諸説が多岐(たき)に渡って定かでない。
ただ、場合によっては――後で解るだろう」
 言葉が途切れると同時に、周囲から気配が突然湧いた。
如何やら、思惑通りに此方に気づいたらしい。
 だが、湧いた気配から放たれる殺気は、一つや二つではない。
あくまで、当人は出てこずに、下僕を寄越して様子を見るつもりのようだ。
なかなか、頭は悪くない。
「……結さん」
「ああ」
 隣を見やれば、静かな様相でゆるく頷いて返す。
話の後では、何処か含みのある表情に見えた。
 だが、今は問うている場合ではない。
俺達がやるべきは、チーフと神代達が逆平達を助けるまでの間、時間稼ぐ事だ。
 それに、後で解ると言っていたのだから、そうなるだろう。
この人の事、考えも無しにこんな前振りはしない。
 そうしている間にも、周囲の気配は膨れ上がっていく。
辺りから、獣特有の臭いに混じって、錆びた異臭までも漂ってくる。
例の事件を経て、仕込みをした結界の中だけあって、かなりの数の下僕がいるらしい。
 だが、それも些細な事だ。
目的があって、更にこの人が一緒にいる――ならば、負ける気などしなかった。

***

余談ですが、初めは山の名前と謂れが違っていました。
当時のデータが吹っ飛んだので、書き直すついでに変えたという裏話があったりします。

尚、龍樹にとって、愁夜達は生き方を変えてくれた恩人で、結は生きる道を与えてくれた恩人という感じでしょうか。
今回のベクトル云々は、そういう意味を踏まえています。
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Author:KUROZ
黒いまめっぽいナマモノ。
最近、珈琲がうめぇ。
禿げ散らかすのが気になるお年頃。
まめっぷ。

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